エビスさんとホテイさん

エロ無し登場人物は女性だけの恋愛を描く百合もの。元々百合カテゴリは女性向けだったということを思い出させてくれる作品。昨今大流行のゆるーくてふわふわーと日常がただのんびりと流れてゆくソフトな百合も良いもんですが、こういう肌がチリチリする女の子だけの恋愛を描いた物語も悪くないものです。単行本一巻で完結するので読みやすいのも良い。

舞台は、主人公で通称マヨの勤める超一流企業の地方支社のそれまた営業所といううらぶれた場所に、本社の超絶雲の上エリートの通称エビちゃんが異動してくるところから始まる。エビちゃんは本社組で総合職で出世街道まっしぐらのバリバリなキャリア組なのに何故こんなところへ、という困惑に加えて、マヨはたまたま本社で仕事をしたときにエビちゃんに会議で仕事の粗を指摘されまくって恥をかかされた経験があり、ああだこおだと想像を巡らせて百面相をするハメになる。

おまけに彼女と仕事のペアを組まされてしまいさぁ大変である。なんだかムカついたのであてこするように大量の事務仕事をブン投げたところ、サクッと定時上がりされてしまう。仕事は手つかずのまま。なんなんだこのクールビューティーは、と呆れ、怒り、そして周囲の反感を買いいじめにもあってしまう。そこまでして仕事しない理由はなんなんだと後をつけてみれば驚きびっくりの事情が待っているわ、任された事務仕事やってないと思ったら別の角度から片づけるスーパー仕事人な一面を披露するわ。エビちゃんにマヨが振り回されまくる日々の中、何時しか彼女が冷たい表情の下に様々な熱い想いを隠していることに気付き始め、惹かれ始めていることを自覚するようになる。

この導入部は百合の定番とも言えるもので、大変すばらしいの一言につきる。表情豊かで明るい主人公その1が、クールで何考えてるか分からない主人公その2の時折見せる笑顔やら憤りやらに心が揺り動かされ始める。嵐を予感させる感情の鍔迫り合い。もしかしたら私たちは、互いに思い込みや勘違いをしていただけで、分かり合えるのではなかろうか。しかし、その感情はただの親切心なのか、友情なのか、それともそれ以上の親愛なのか?

当然ながら、このままエピソードを積み重ねて好感度を上げてグッドエンディング、とはそうそう問屋が卸さない。百合の定番、第三のキャラクターで二人の仲を引き裂かんとするお邪魔虫の登場である。あれこやこれやと意地悪をしてくるけれど、でも実は良い人だというのも王道を往き、実に良い。いやまぁ、お姉さんのエビちゃんに対する愛情はかなり歪んではいますけどね。いくら肉親とはいえあれだけあっぱらぱーだと関係修復できるのかどうか怪しい匂いがプンプンする。

三角関係を描く物語ならみんなそうかもしんないですが、この作品のキャラクターはみな自分なりの信念に基づいて行動している。もちろん価値観とは人それぞれ異なるものであり、衝突は不可避。エビちゃんの仕事に対する責任感と誇りの高さ、ただそれ故に人間関係の構築を一段低く見ている。それゆえに、協調を良しとするマヨたちとは溝を生み、エビちゃんに対する憎悪を生む元となる。ただ、エビちゃんからすれば大切では無いものを適当に扱っているだけのことで、行動には根拠がある。おまけに本書後半では、本書冒頭でエビちゃんがマヨを公開処刑したワケが語られる。そりゃあそんなこと言われたら愛が生まれない理由が無い。

ラストはこれもまた百合の定番であるハッピーエンドで終了するので、読んでいて肌がチリチリしていても、読後はなんだかんだいって爽やかな気持ち終えられる。いやでもこのオチはビックリはしましたけれどね。価値観が衝突していたけれど、わたしたちは実はただすれ違っていただけだったのだ、と彼女らは気づくことができた。であるなら、自分の信念に素直であるべきだ、と行動を起こしたマヨの胆力は称賛すべきところでありましょう。それを受け入れるエビちゃんも大概の器量良しだし、お姉さんもなんだかんだ言って両者の橋渡し役になってるし、収まるべきところに収まった終わり方は大変結構である。

はじめチリチリ、やがてほのラブからの緊迫展開、そして大団円という王道パターンを抑えている百合マンガは最高です。

エビスさんとホテイさん (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ)

エビスさんとホテイさん (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ)