マギクラフト・マイスター

http://ncode.syosetu.com/n7648bn/ 2014/02/21時点では連載中。

ものづくり系異世界転生ファンタジー異世界転生は小説家になろうでは珍しくもないジャンルなので説明は良いとして、ものづくり系とは何か。これは俺が便宜的につけたカテゴリなのでそこんとこは気にしないで欲しいが、どういう系統の作品かというと。現代日本水準の科学や工学知識を持った主人公が、現代ほどには技術や文化が発達していないファンタジー世界で活躍する、というお話である。ただし、現代の進んだ知識をチートと位置付け、転生先の水準からすれば驚異的な力で持って無双する作品は、小説界になろうには腐るほど存在する。作者の都合の良い世界で、主人公にやりたい放題やらせたい欲求は理解できるし需要もあるので、そういう作品が溢れている事はそういうものだとしか言い様がない。

この作品がそうした凡百のチート作品より優れているのは、主人公の異世界ファンタジーライフを描くことを第一義に置かれている点にある。現代水準の科学知識はあくまでも添え物なのである。主人公の造形は、工学系男子という字面からはみ出ない程度には純粋で素朴な青少年といったところ。だから、戦闘で派手に活躍したり、老獪な手段で政治力を発揮したり、なんてのは無い。その代りに、技術者らしくものづくりで転生先の世界を豊かにしていこう、という生き方を選んでいる。

まだ連載中なので最後はどうなるかはわからないが、物語全般的にあちらこちらへ出かけて行って、インスピレーションが沸いたら色んな物を作って、その世界の暮らしや人々に貢献したり驚異的に見られたり、というのが大きな流れとなる。設定上の見どころとしては、魔法と科学の融合の描き方でありましょう。魔法のおかげで、様々な加工や分析といったものを主人公ただ一人でやってしまう。こちら側の世界では巨大な設備や長大な工程が必要なものを、さくっと作れてしまうのが面白いところである。

また、そうした様々な加工には、現代の科学知識をバックグラウンドにして解説が行われる。読み手が得られるのはウンチク程度の知識ではあろうが、こういうところをしっかり解説している点もポイントが高い。やはり、ものすごいことをやっているということにちゃんと裏付けがあると納得感が高まり、読後の満足感も高い。

主人公は驚異的テクノロジーの持ち主なので、物語が進むにつれて徐々に政治的な要素も絡むには絡んでくる。ネタバレはしたくはないのでぼかして書くが、戦争みたいなものに巻き込まれることは巻き込まれるのだが、そこはまぁチートの持ち味発揮ということお察しであり、これ以上は是非本編を読んでいただきたい。ご都合主義だなぁと言う程度には主人公にとって都合の良い平和な世界だが、そこはまぁ英雄譚じゃないんだからそういうハッピーな世界観で良いんじゃないかな、と俺は思う。

強い主人公にはつきもで一応はハーレムものの要素もあるにはあるのだけど、そこまで露骨な代物ではない。こういう風味の作品では鈍感なのは鉄板だしね。メインヒロインは主人公が手ずから作成した自動人形(オートマタ)の礼子になるだろうか。常にマスターの陰日向に寄り添い、八面六臂の活躍を見せるのが見どころでありましょう。要所で見せる、マスターの尋常ならざる知恵と技術の最高傑作であることに誇りを持ちつつ、人で無いが故に人であるマスターと同列には永遠に立てないことに苦悩する姿がいじらしい。

他にも何人かヒロインは出てくるのだけど、ここでは礼子のことに触れるだけにしておきたい。ただ、気になるのはヒロイン途中降板あり、というタグが付いている。これビミョーに初めて読み進めるときに二の足を踏んでしまうような気がするのだが、別に死んだりするわけではない。あくまでも主人公のハーレムの輪から外れる、というだけの話である。そういうのすらイヤだって層向けの警句ってことなのか?

ストーリーの大きな流れとしては、過去発達した技術などが廃れてしまった過去の大戦の真実であるとか、どうも主人公が初めての来訪者ではなく星間移動してきた先住者がいたのかもしれない疑惑であるとか、まだ連載中なこともありその辺がどうなるのかも見どころである。主人公があれやこれやと異世界に根を下ろすべく各種の活動を進める中で、偶然にもそういう世界の秘密を知ったり解き明かしていくことになる……そういう冒険物語がこの作品の魅力でありましょう。