ヴァルチャー

ヴァルチャー 完結済

中世ヨーロッパ風VRMMORPG世界に取り込まれちゃう系の一次創作ネット小説。放り込まれた世界は、現代日本とは異なる戦乱と陰謀渦巻く混沌の時代であり、異世界に迷い込んだプレイヤーたちは困惑しながらも彼らなりに適応していく。そんなわけで、割とカンタンに命が安く散っていくため、結構悲惨でダークな展開をしていく。主人公たちもアッサリ首ちょんぱしていくので、ややグロいのが苦手な方にはオススメできないかもしれない。

しかし、そんな最低最悪な状況下にあっても、なんとしてでも生き抜いてやる―例え他者の犠牲の上にしか成り立たないものであったとしても―という強い意志で闘い続ける主人公たちがなんとも格好よい。主な主人公となるアギラとユウは、異世界放浪前の日本でも悲惨な生活をしていたという下地がある。それがゆえに、弱肉強食の戦乱の時代を駆け抜けられたというのがなんとも皮肉な所であるのだけど。彼らは、序盤こそチート能力でもって死を免れるために必死な生き方をするのだけど、それがために次第に多様な人々を惹きつけるように成長していく。アギラさんはあんま変わんないけど、ユウの貫禄レベル上昇っぷりは素晴らしい。依存がやがて解きほぐされ、終いには王者の強靭さにすらなってしまうとは。

作者あとがきによれば、本当はより悲惨な物語になる予定だった、というのも頷ける話である。暗黒属性のアギラとユウではあるのだけど、彼らが元来持つ生命力が強すぎて明るいエンドになってしまった、というのも深く共感が出来る。紆余曲折はあったけれど、なにげにハッピーエンドなんですよね。あんな大団円になるとは序盤からはちょっと想像ができない。

俺はこの小説お気に入りなのだけど、無条件に他人に薦められるかというと少し苦しい。先に書いたようにダークなお話というのもあるし、やや読みにくい部分があるからである。この小説の持ち味として、深く説明や解説が必ずしも行われない点が挙げられる。それこそが、奥行きのある世界観を成立させている。無闇に親切なキャラクターや描写がないおかげで、想像の余地が生まれる。登場人物たちは切迫した時代を生きているわけで、状況を100%理解して行動をする余裕があるわけでなし、ある種動物的な嗅覚に基づいて選択行動をする。そこが奇妙なリアリティの源泉である。ただ、色々省略されてしまうと、ちと読みにくさがある。特に政治的背景を持つ部分については、この作品独特のノリについていけないと苦しいものがある。

最も、ネット小説に商業作品のような完成度を求めても致し方ない。むしろこういう荒っぽさを放つ作品をこそ漁るのがネット小説の醍醐味であろう。