マルドゥック・スクランブル The 3rd Exhaust 〔完全版〕

バロットとウフコック、シェルとボイルドの長いような短いような戦いの日々も遂に終結ということで。当初こそ激しいスーパー悪党なこの二人でしたが、あれやこれやと過去やら何やらの素顔をはがされていく内に、どれだけ惨たらしいことをしようともやはり人間だったのだ、という展開となりました。悪役サイドに共感を呼ぶような、あまつさえ主人公側のバロットから共感を呼び起こさせるような手法には、批判もあるかもですが、彼女の物語として必要な要素だったんでしょう。彼女の精神的成長なくしてボイルドの打倒はありえなかっただろうし。

少女にギャンブルやらせてる時点で小説とはいえ健全なコンテンツではないし強姦やら売春やらちょっと眉をひそめたくなる設定がてんこもりですが、現実の世界にこういうものがマッタクないわけでもなく。ハードな過去持ちという設定付けにはある程度仕方ないでしょう。ただ、これらのダーティな側面も何の裏付けも無く記号付けとして存在しているわけではなく、随所に戦争やら科学発展の負の側面やらの結果の産物である、という荒んだ背景があるようなんですよね。そして、シェルやボイルドはある意味ではそれらの被害者であるという。勿論彼らの犯罪は許されざる所業ではあるのですが、そうならざるを得なかった後押しがあり、一概に嫌悪して捨てることができない。

そんな憎むべきであるが憐れむべき敵を最後にはバロットは処断するわけですが、一歩どこかで道を踏み間違えていればお互いが逆の立場で攻防を繰り広げていたかもしれない、のがなんともやりきれない。バロットにはウフコックとドクターという心強い仲間がいてあれやこれやのバックアップや助言をしてくれたという違いはあるのだけれど。それはシェルにボイルドが、ボイルドにかつてウフコックがいたことから、重要なファクターではあるものの核心ではなかったのだろう。

バロットとウフコックのやり取りに、過去は化石なのだという一幕があるが、これが象徴的なんじゃなかろうか。誰にでも取り返しのつかない過去や消したくても消えない感情の残滓はある。バロットも当然これに苛まれ危うくウフコックを失う寸前までいきつつも、戻って来ることができた。銀の涙を流して過去は化石で過ぎさりし結果であり、未来の方向性を決めるものではない。成長できることそのものが、彼女に勝利をもたらした。シェルは過去の辛い記憶を熟成させることを拒み、ボイルドは過去の相棒ウフコックに執着し続けることで、バロットに敗れた。悪役二人の凄惨な生い立ちは同情されて然るべきものの、最早過去に未練の無くなったバロットに屈するのは必然だったんでしょう。