死神を食べた少女

死神を食べた少女 完結済

著者の活動報告を見ると書籍化の動きがあり近日中にもWebからは閲覧不能になりそうだけれども、面白い小説だったことにかわりは無いので読後の感想を書いておく。

この小説の特色は二面性にある。キャラクターの描き方だけでなく小説の構造そのものにもそれが適用されている。戦争という狂気を描くにあたり、多様な視点を重視したのだろうか。ともかくも、複雑な情勢下における多様な人物たちの織り成す戦争物語あるいは英雄譚として非常に味わい深い小説に仕上がっている。

まずはなんといっても魅力的な主人公である「死神」の少女。およそ対人戦闘には向いているとは到底考えにくい大鎌で敵兵を縦に横にとブッたぎりまくりなシーンの爽快感は大変なものがあります。死をも恐れぬ壮健な騎兵達の先頭に自ら立ち、命を刈り取る諸手の獲物を構えて戦場に恐怖と混乱を撒き散らす。そんな恐ろしい彼女も一度自陣に戻れば、ご飯を常に探し求めるはらぺこ少女になりかわる。信頼すべき仲間たちとの暖かな食事の場を大事にし、手ずから植えた種芋の生育具合に気を揉む純朴さを見せる。そのギャップが、余りにも狂人めいた人格破綻者であるにも関わらず、とても人間的に見えるところがツボである。

この物語は、大きく二つの流れに従って展開していく。一つは上にも述べた通り、死神の血塗られた戦場の話。もう一つは、国家同士の駆け引きや戦略レベルでの活動、あるいては政治家や軍指導部たちの泥沼の話。基本的にこれら二つのレベルは無関係に進行するのだが、時に運命的な交錯をし、時にすれ違いをしながら、徐々にダイナミックに展開していく。登場人物は結構な人間がおり、両軍の様々な立場にある彼ら彼女らもまたそれぞれ心憎い人物が多いのだが、そんな彼らの思惑を文字通りブッたぎっていく死神がやはりなにより素敵である。

この物語がハッピーエンドと呼べるかどうかは、ちょっと手放しでそうとは言えないだろう。だからといって価値が減じるわけではないが、血生臭いものを好まない方にはオススメできそうにない。終盤に戦局が正念場を迎えると、どうやったところで死人が出まくるものであり、主要な登場人物もその例外ではない。何事にも流動性というのはあるもので、正と死、開放と崩壊は必ず訪れる。ラストに向けて盛り上がっていくカタストロフィの作り方はお見事の一言である。