ウチの姫さまにはがっかりです…。

著者の鈴木鈴氏と言えば、吸血鬼のおしごとシリーズが俺にとっては印象深い。例のシリーズでは、序盤こそドタバタなコメディでおきらくごきらくなラノベを匂わせつつ最終的には登場人物の大半が社会的に××になるという大変に陰鬱なエンドを向かえるという、最初と最後の落差がおぞましいものであった。そんなわけでキャラクターをサディスティックに扱うことに定評がある作者であるため、ドSな王女様というコンセプトは相性が良いと思われた。表紙絵で釣って内容でキチンと裏切らせる作戦なのは見え見えであったが、釣られて良かったレベルである。内容は真っ当な異世界ファンタジーとはさすがに言い難いが、基本的にはそこそこに中世ヨーロッパ風ファンタジーで王女とメイドと騎士のラブコメと冒険。なので、なんだかんだいってラノベの王道っちゃ王道である。しかし、キャラクターの味付けが奇妙な方向にエッジがきいているので、これを個性的な表現と取るかキモすぎありえねーとなるかは、読者次第といったところだろうか。

ここ異世界っすからと主張する地の文は比較的丁寧に描写されているものの、ブッ飛んだキャラたちの奇行ですべて吹っ飛んでしまう。ちょっと大丈夫ですかこの国、と創作物にもかかわらずツッコミを入れたくなるほど何かがおかしい。彼女らのお遊びが具体的にどんなものかについては本書を読んで頂くとして、それは少女たちのちょっと行き過ぎだけどもまぁほほえましい光景と言えなくもないものである。それが王女様とメイドでなければ、だが。しかも王族が一族連綿とこの性癖を継承と受け継いでるらしいともなると、最早狂気の域である。コレが何代にも渡って世間バレせずに済むだけの何らかな強制力でも働いてるのか、そういう機構でも存在するのか―実際のところ騎士団長による抑制装置の存在も示唆されていたのだが―はたまた露見したところでスルー力の高い良く訓練された国民しか居なくてモーマンタイなのかは良くわからないが、意味不明な突っ込みどころ満載なのが本書の魅力であるのは間違いないだろう。あとがきも狂ってるし……仕方ないね。

最大の見所はある種の拮抗状態となる三角関係であろう。無意識レベルでいぢめに悦びを覚える危険思想の持ち主でありながら国家を背負う者としての高レベルな責任感にチートな治癒スキルを有するという滅裂なハイスペック王女様に、そのサド女王様に責め立てられるのを何よりの至福な喜びを覚えるどうしょーもない性癖持ちだけど侍女としては完璧であるというマゾメイド。この攻守関係でエコシステムが完結しているところに、主人公の騎士見習いがぶっこんでいく構図になる。彼の立ち位置は、使命感から王女様には身分差を越えて強く訴えられるが、しかし身分差やら状況やらを利用して嗜虐の対象となり、メイドからは寵愛の対象が自分でないことを僻まれる上に純粋な戦闘能力でも劣っていてズタボロにされたり……あれ、関係がべつに三角でもなんでもなくてシンプルに主人公の立場ヨワヨワな気が……なんかよくよく考えれば彼は誤爆に誘爆に自爆してるだけのような気がしないでもない。が、その滑稽さが本書の魅力なのであった。