アウトブレイクカンパニー

映画のアウトブレイク割と好きだったんですよね、という理由で手に取った一冊。しかし内容は表紙絵通りの中世風ファンタジーなので、例のパニックモノのような内容ではない。主人公が現代日本人でファンタジー異世界に突然召還され、文化や歴史の差におっかなびっくりしながら生き方を模索していく、という作りです。しかし、日本とファンタジー世界が非常に限定的ながらも繋がってしまっている状況なので、完全孤立無援というわけではない。そうなると、当然様々な利害関係というものが織り込まれてくるわけです。細かいところは小説本体に譲るとして、両世界の諸勢力の調整の結果、生粋のアキバ系オタクな主人公をとりあえず異世界に放り込んで、ファンタジーな世界に我らのクールジャパンが誇るオタク文化を布教しこいや、という流れがこの小説の大まかな流れです。そういうわけで主人公は状況に流されまくりで、本当に絵に描いたようなヒキコモリオタク設定なのもあってお前は自分というものがないんかい、と突っ込み所満載なわけですが、それが逆に仇となって割りと良く分からない状況下で謎の行動力を見せて、何時の間にやら良い方向に流れが向っていく、とかその辺が楽しみどころかと思います。

基本的にはソレナリに面白い一冊であり今後も期待できそうな感じではあるんですが……だからこそ逆にちょっとこれはなぁ、という点がたくさんある。なんかエライ中途半端なところで一巻が終わっており、もうちょっとクロージングの仕方はなんとかならなかったのかなぁ、と。ラストも、ラストだからとりあえず盛り上げとくか、みたいな投げやり感が更に残念感が増すといいますか。同じくらいの時期に1,2巻出てるから、一緒に買えってことなんですかね。2巻読んでないんでその辺はなんともいえないですが、セット扱いならタイトルに上・下が欲しかったところだが……

女性陣のキャラ造形はごく普通。登場人物絞る代わりに密度を上げようという戦術は機能している。ただ、主人公はもうちょっとどうにかならなかったものか。同属嫌悪ということで、オタクで内向的な人物に生理的嫌悪感が出てしまってるだけ、というのは自覚症状があるんですが、なんか、こう……残念すぎるというか。あまりにもふわふわしすぎてイマイチ感情移入がしにくいんですよねぇ、彼。現代日本をシニカルに見せようという意図もわかるっちゃわかるんですが、disり方がちょっといくらなんでもステレオタイプしすぎやしませんかねぇ。どうせ批判的にやるなら、もっとユーモアを盛って欲しいというのが個人的な要望です。

やはり全体的に中途半端感があるんですよね。文化侵略とかも題材としては別にいいんですが、破壊的にやるのならもっと徹底的にやって頂きたく。あたりさわりのないキャラ萌えで明るく楽しくきゃっきゃうふふの描写は割と良い感じではあるものの、本筋の方の完成度が今ひとつであると、やはりその辺の浮つき加減が気になってしまう。色々詰め込みすぎて、色々ビミョウな出来になっちゃってるといいますか。アレもコレもとてんこ盛りするんなら、問題児たちシリーズくらいの突き抜けが欲しいところです。

アウトブレイク・カンパニー 萌える侵略者1 (講談社ラノベ文庫)

アウトブレイク・カンパニー 萌える侵略者1 (講談社ラノベ文庫)