乙女はお姉さまに恋してる 2 黄金の檻 荊の鳥籠

おとボク2のノベライズ3巻目。ここまで来るんならナンバリングしてほしかったところですが、そこは致し方なく。表紙絵からも分かるとおり、今回は華道部後輩のうたの&雪ちゃん回。俺は割りとおとボク2に思い入れがあるので、その補正から、あぁこんな話だったなーと感慨に浸りつつ面白く読み進められました。また、再構成するにあたっての大筋のシェイプアップをして、それで削った余裕をノベライズするにあたっての原作には無かった独自イベントの追加に当てるということもしており、相変わらず原作信者にはやさしい設計になっている。ただまぁ、最後まで完走しきってない現状では、未読な方々に無条件でオススメできる代物ではなく、ラノベとしてはちと微妙ではある。が、まぁエロゲのノベライズなんてそういうものといえばそうなんですが。

さてそんなわけで、ページめくってすぐの謎水着カラーイラストに度肝を抜かれました。そういやぁ本編ではエロゲではありがちなよくある水着イベントが無かったよなぁ、というところであり、そこのあたりのファンサービスを見事に処理しきったのは原作書いた人間のノベライズだからこそ、といったところか。何の前触れもなく水着の美女に囲まれても屈することのなく社会的に抹殺されるフラグをへし折るために、鋼鉄の精神で持って平然と事に当たる実にドス黒い千早さまが見所です。無垢な精神で雅楽乃にタックルされても、千早さまは平常心を保ち続けるという高度に発達した乙女心に乾杯としかいいようがありません。色々な意味でジェンダークライシスですね。

とまぁ最初に千早さまに爆弾を投下したあとは、雅楽乃と雪ちゃんの確執イベントへ向けてちゃくちゃくと足場固めが行われていく。この巻のラストで一気に家元うんぬんによる喧嘩別れ状態は解消するところまで持っていってます。エロゲでは雅楽乃&雪ちゃんルートに相当する部分ですね。この辺り、エロゲだとルートによって主人公たる千早と雅楽乃or千早と雪ちゃんという視点で固定化される関係上、諸々が分断されて分かりにくくなる弊害があったわけですが。そこの分断をラノベと言う形に一本化し、更に人間関係というか人生相談窓口を千早と雅楽乃&薫子と雪ちゃんと負荷分散させることで良く整理された印象です。上手いこと千早と薫子のダブルエルダーが機能した形ですかね。

その副産物的効果として、雅楽乃の出生がより掘り起こされて深みが出たのもナイスです。お嬢様学園に置かれましてはアウトサイダーと評されてしまう雅楽乃のはっちゃけ振りも大変なものがありましたが。家元業務が! の下りはこの子ついに業務って言っちゃったよ! と、感慨深いものがありました。雅楽乃の鬱屈ぷりは大変なものやでぇ。しかしながら、後天的な強制教育とはいえ一度身に付いた高度なスキルはやはりスキルとしてカウントされる。ノベライズでは千早ルートを通らないと思われますが、早々に鳥かごを開ける術を手に入れ、かつ、自由に飛び立てる底力を持った雅楽乃の将来が末恐ろしい限りであります。

おとボク2は元々、千早と母の絆を取り戻す側面のあるお話でもあり、今回は雅楽乃と雪ちゃんによって母と娘の関係性にスポットライトを当てる作りになりました。生まれる家は選べないという運命論といいますか、ときに母親が持たざるを得ない業の深さといいますか。次があるとしたら、更に難しい香織理お嬢さんになるわけですが……大勢はエロゲのものを流用するんでしょうが、細部ではラノベとしての辻褄合わせとしてどのような戦術を取るのかが楽しみです。